楽観的日和見主義

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溺れる猿が藁をも掴む 2

 甲高い機械音が鳴り響く。
 手探りで探し当てた携帯を開き、アラームを止めると枕もとの眼鏡をかけ、のっそりと立ち上がった。バイト先のガソリンスタンドに行くため、平日は朝6時に起床しなければならない。

 基本的に仕事は選んでいられない。溺れる者はワラをも掴む、ということわざのように早朝からガソリンスタンドのバイト、夜は週1だけパチンコ屋のバイトを入れた。ともかく貯金をしたい。そしてうまいものを食って、テレビも買って、ちょっといいスーツを買って…と計画は尽きない。
 それに比べこいつときたら。
 カバのようないびきをかく矢野を踏みそうになりながら歩き、食パンを口に詰めた。着替えて顔を洗って歯を磨いて、髭を剃り終えた所で矢野が目を覚ました。
「今何時~?」
「6時半」
 肩まで伸びた髪が顔にかかって貞子のようだ。あまりに呑気な口調だったので嫌味を言ってやる。
「お前ほんとよく寝るよな」
「オレ今日昼からだからぁ~」
 まったく意に介していないように再び布団に顔をうずめる。矢野はコンビニのバイト一本で、それも昼から午後いっぱいの時間帯が最多である。コンビニなら早朝と深夜の給料がいいのだからやってみろ、と一度勧めてみたのだが、
「オレは、夜は寝て昼に起きたいの!」
「朝起きろ」
 という会話があって結局成り立たなかった。うだつの上がらない奴だ。

 そもそもなぜこいつと同居する羽目になったのかというと、専門学校を卒業し、就職しようと思っていた会社を落ちてしまったのがそもそもの始まりだ。
 とりあえず稼がなくてはならないのでバイトして一年繋ごうと思っていたが、「こっちじゃ仕事もないし、どうせなら東京でもいって就職したら」と無責任なことを親が言うもので(次男だからというのもあるだろう)、まぁやぶさかでもなかった俺はあっさり上京を決意した。そこに、高校を卒業してプラプラしていた矢野が「オレも連れてって」と言い出したのがきっかけだった。家賃が半分になるし、知り合いも一緒なら心細くないだろうと思い二つ返事で承諾した。今では猛烈に後悔中である。

 自分の軽率さを憂いながら部屋を出ようとすると、漫然と置いてある矢野の空気清浄機が足にぶつかった。痛てぇ。思わず舌打ちすると、矢野が飛び起きた。
「ちょっとー!高いんだから大事に扱ってよー」
「安い奴買えばよかっただろ」
「でもコレ、イオンがついてて…」
立ち上がろうとした拍子に思い切りすべって転び、矢野は畳に勢いよく顔面からダイブした。
「いっっでえ~!!いだいいだい!!死んじゃうぅううー!!」
 半ベソで布団の上を転げ回る。うだつの上がらない奴だ。

 ドアを開けると、温かな陽射しが差し込んできた。そういえば今は四月なのだ。この季節にこんなボロいアパートで、朝から同居人の分も稼ぎに行かなければならないと思うと、堪らなく億劫な気持ちになったのであった。



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